例えば−−−年の差。中学生って枠は同じなくせに、上級生と下級生の隔たりは大きい。 例えば−−−身長差。屈んでもらうとか、座ってもらわないと、俺からキスするのは無理。 例えば−−−性格差。個人の個性だから仕方ないとは思うけど、あまりにも堅物過ぎ。 俺とあの人との接点なんて、同じ学校で同じ部活という事ぐらい。 別にあの人と全く一緒になりたい訳じゃないけど…もっと近づきたいって思う。 今の俺と、あの人との差が…こんなにも明白なものだから。 >> MY DARLING 「はぁ…、つまんない」 今日は生憎の雨模様。 普通なら筋トレになるところだが、他の部で体育館がいっぱいになった為、放課後の練習は無し。 こんなにも退屈な日は他に無いな…と、リョーマはどこか自嘲気味に笑顔を浮かべた。 部活は、最愛の人と一緒に居れる唯一の時間。それすら奪われてしまって、気分が滅入ってしまった。 他のクラスメイトは、部活に行ったり帰ってしまったり。 リョーマ一人が教室で、ただ何をする訳でもなく残っていた。…雨は、止む気配がない。 「最悪…こんな日に傘忘れるなんて。今日って厄日なわけ?」 玄関先までは傘を持って行こうと覚えていたのに、出る時に慌てていて忘れてしまった。 誰かのを借りようにも、こんな日だ。いつもは置きっ放しになっていた誰かの傘も、姿が見えない。 気分は憂鬱。テンションは最悪。 「…こんな日は早く帰って、カルと遊びたい…」 叶わない願いを口にしながら、先程書くのを止めた紙を見つめた。 延々と書いてあるのは、リョーマと手塚の違い。 リョーマは自分で退屈凌ぎにと始めたのに、あまりにも共通点の薄さに段々嫌気が差してきていた。 思わず紙をグシャグシャと丸め、後ろも見ずに投げた。 カサッ 紙くずとなったそれの落下音を聞いて、何故か余計に虚しくなり、居眠りの体勢をとった。 寝て、目が覚めたら…もしかしたら雨が止んでいるかもしれない。と、淡い期待をして。 カサッ…カサッ… どれだけ時間が経ったのか分からないが、リョーマは紙が擦れる音を聞いて目を覚ました。 重い瞼を、ゆっくりと持ち上げる。ぼんやりとした視界が、徐々に色を取り戻していった。 「…越前、目が覚めたか?」 「?………部長!?」 視覚で判断する前に、聴覚が目の前の椅子に座っている人物を当てた。 驚いて目をパチパチと瞬かせて、手塚の姿を確認するリョーマ。 そんな様子を、手塚はただ頬の筋肉を弛緩させて見つめた。 「…え?え?部長、何でここに?」 「生徒会の仕事があったんだ。帰ろうと思ったら、お前のクラスに明かりがついていたから…もしやと思って来てみた」 「生徒会…あぁ、そう言えば校内放送があったかも…。って、部長!さっきから何読んでるの?!」 リョーマは手塚が読んでいた紙を引っ手繰ろうと腕を伸ばしたが、もちろんリーチの差があるわけで。 手塚は悠々とその腕をかわし、その紙を指差した。 「越前、これは一体何なんだ?」 「…う…」 全てを理解した上での質問に、リョーマは腹立たしく思いながら、手塚の顔を見つめた。 「読めば…解るでしょ。部長と俺との違い」 「…気にしてるのか?」 「別に…。でも、同じ学年だったら、とか…たまには考えちゃうよ…」 頬をほんのり紅く染めるリョーマを、手塚は素直に【可愛い】と思った。 付き合う前も、付き合った後も、特に行動に変化の無かったリョーマだから、こんな風に思っているとは微塵にも思わなくて。 手塚は普段は無表情なその顔に、微かに笑顔を浮かべた。 「俺はお前との差が、逆に良いと思っているけどな」 「…だから、別に嫌なわけじゃなくて…」 「俺は、今こうしてお前と居られる事実が嬉しい」 「…っ」 不覚にも感動して、泣きそうになった顔をリョーマは俯かせた。 そんなリョーマの頬を、手塚は優しい手つきで撫でた。 「越前は、今に不満があるか?」 「……ううん」 「なら、問題はないだろう?もし、という仮定は理想に過ぎない。…俺は、今二人でいる結果を大事にしたい」 「…うん、俺も!」 はにかむような笑顔を浮かべて顔を上げたリョーマに、手塚はそっと顔を寄せた。 しかし、リョーマはその身体をそっと押し返した。 「…越前?」 「ねぇ…知ってる?あんたが座ってる時なら、俺からキス出来るって事」 リョーマはにっこりと笑顔を浮かべ、まだ片手で数えるぐらいにしかした事のない自分からのキスを、手塚にした。 思わず、顔を紅くする手塚。リョーマは満足気にその表情を見た。 「やっぱり、違いがあるから良いのかもね。俺からのキス、貴重でしょ?」 ふわっと悪戯に成功した子供のような表情を見せるリョーマに、手塚は仕返しとばかりに。 「…今夜は、俺の家に泊まって行くか?」 と耳元で囁いた。 第二弾は塚リョーー!!!手塚はどうしてもこんなキャラになっちゃう! こう…相手に諭す?んでもって最後はむっつり?……ごめんなさい。原作のような素敵な手塚が書けません;; 結局、リョーマさんは食べられちゃうんでしょうねぇ…。あぁ、12歳が穢れていく。(笑) |